NBASは、The Neonatal Behavioral Assessment Scale (Brazelton, 1973, Brazelton, 1985, Brazelton and Nugent, 1995, 2011)の略で、日本語表記ではブラゼルトン新生児行動評価と記します。NBASは、正期産児では0~2か月までの赤ちゃんを、早産児では修正37週からの赤ちゃんを対象とした神経行動発達の評価ツールです。赤ちゃんが外環境や周囲の人と上手に関わることができるかどうかについて、赤ちゃんの生理機能(呼吸・循環機能など)や運動能力、認知能力などを測定し、赤ちゃんをよりよく理解することで、赤ちゃんの成長・発達を促すためのより良い環境設定や看護ケア、育児の方法を考えることができるものです。
NBASの開発は小児科医のBerry Brazeltonによって行われました 。Brazelton氏は赤ちゃんの行動と親の育児についての臨床と研究を行うなかで、赤ちゃんは何もわからない無能な存在ではなく、「有能性をもつ個性豊かな社会的存在」であり、“人としての赤ちゃん”であるという発達観を打ち立てました。そして赤ちゃんを理解し関わることが、赤ちゃんの成長発達と親の成長を促し、親子の関係性をより良く築くことになるという発達理論を構築しNBASを開発しました。
新生児の生まれもつ力は、行動(Behavior)として表出されます。赤ちゃんの行動は、発達の指標、強さと弱さを示す、コミュニケーションツール(言葉)、行動力と環境の相互作用が発達の原動力となる、行動のスタイルを通して個性を示します。
NBASでは、赤ちゃんの行動を4つの行動系として定義しています。呼吸・循環・代謝などの生理的恒常性を維持するための自律神経系の安定性(自律神経系)、運動系:姿勢や筋緊張、自発運動、原始反射などの運動調整(運動系)、睡眠から覚醒、泣きの意識の状態の調整(意識状態系(ステート))覚醒時の敏活さと、視聴覚反応を介した相互作用の力相(互作用系)。これらの4つの行動系は、大まかに階層構造を持ち、相互に影響しあいながら、組織化され発達していきます。
赤ちゃんの行動能力に適した外環境やかかわり方が、赤ちゃんの発達を促し、逆に、赤ちゃんの行動能力に見合わない過不足の外環境は赤ちゃんの発達を阻害することになります。また、外環境の適切さ・不適切さも、赤ちゃんの行動に現れることになります。赤ちゃん行動と外環境の適応と相互作用の力を知ることが、その赤ちゃんに適した発達や育児、親子の関係性の支援につながります。
現在では、NBASは早産児を対象とした評価スケールとして早産児行動評価(Assessment of Premature Infant’s Behavior; APIB, Als,1982)、新生児の行動に基づくケアモデルである新生児個別的発達ケアと評価プログラム(Newborn Individualized Developmental Care and Assessment Program; NIDCAP, Als,2008)へと発展を遂げ、もう一方では家族の関係性支援のツールとしてNBOへと発展してきています。
NBASの活用は、医療保健(医学)・心理・教育・保育分野等で幅広く活用されています。研究では、正期産児、未熟児、低出生体重児、出生前および周産期のさまざまな危険因子の影響、出生前の物質曝露の影響、環境毒素、気質、異文化における新生児行動、発達の予測研究、霊長類の行動研究など広く使用されています。
NBASの考え方は広く受け入れられ、世界中で活用されています。NBASのトレーニングは、本部のアメリカ(Brazelton Institutes)の他、日本以外でも、オーストラリア、ベルギー、デンマーク、フランス、イタリア、ノルウェー、ポーランド、ポルトガル、南アフリカ、スイス、英国で提供されています。
東海支部(2022年12月現在):大城昌平・永井幸代・永田雅子